はじめに
「事例整理だけで半日つぶれる。評価の検討に入る前に疲れてしまう」
鑑定実務に携わる方なら、身に覚えのある感覚ではないでしょうか。取引事例の収集・整理は鑑定評価の土台となる大切な工程ですが、作業の中身を見れば、PDFを開き、項目を探し、表に転記し、単価を計算するという反復作業の塊です。
当事務所はこの工程をAIで自動化し、従来180分かかっていた作業が30分になりました。本記事では、従来の手作業の内訳、AI化後のフロー、そして自動化しても精度を落とさないための設計を、実務でそのまま使っている形でご紹介します。
第1章: 従来の手作業は何に時間を食っていたか
当事務所の従来手順を分解すると、時間の内訳はおおむね次のようなものでした。
- PDFを1件ずつ開いて読む: 資料の様式が案件ごとに違うため、目的の項目を探すだけで時間がかかる
- Excelへ転記する: 所在・取引時点・価格・面積などを1項目ずつ手で写す。件数が多いほど転記ミスの危険も増える
- 単価計算と体裁調整: 単価の計算、列の整形、表記の統一
- 見直し: 転記ミスがないか、元資料と表を突き合わせて再確認
つまり時間の大半は、判断ではなく「探す・写す・整える」に費やされていたのです。ここが自動化の狙い目でした。
第2章: AI化後のフロー — 事例PDFフォルダからExcel一覧表へ
手順は3つだけ
当事務所ではClaude Code(クロードコード:生成AIが自分のパソコンのフォルダを読み書きし、資料の読み込みから成果物の作成までを一括して行う「エージェント型」のツール)を使い、次のフローにしています。
- フォルダに入れる: 案件フォルダの中に事例PDFをまとめて入れる
- 日本語で頼む: 「このフォルダの事例PDFを全部読んで、所在・取引時点・価格・面積・単価の一覧表をExcelで作って」と依頼する(実際には後述の精度ルールを含めた定型の指示文を使います)
- 突合して確定する: 出来上がったExcelを元資料と突き合わせ、内容を確定する
AIがPDFを1件ずつ開いて読み、項目を抽出し、単価を計算し、体裁の整ったExcelに仕上げるところまでを一気に行います。人間の仕事は最後の突合と判断だけです。この使い方の全体像はClaude Codeの実務活用の記事でも紹介しています。
時間の変化
「探す・写す・整える」の3工程がほぼ丸ごとAIに移り、人間の作業は「確認する」に集約されました。結果が180分→30分という実測値です。しかもこの30分は、機械的な転記ではなく元資料との突合という「目を使う仕事」に使われており、疲労感がまったく違います。
第3章: 精度を守る3つの設計
自動化で最も怖いのは、誤ったデータが一覧表に紛れ込むことです。当事務所は指示文に次の3つのルールを組み込んでいます。
設計1: 元資料からの転記を徹底させる
「資料に書いてある内容だけを転記する。AIの一般知識で補完しない」と明示します。生成AIはもっともらしい穴埋めをしてしまうことがあるため、記憶で書かせず、元資料から写させるのが精度の生命線です。
設計2: 読めない項目は「要確認」と報告させる
判読できない項目や記載のない項目は、推測で埋めず空欄にして「要確認」の印を付けて報告させます。これにより、人間の確認は要確認箇所に集中でき、突合の効率も上がります。
設計3: 事例の採否は鑑定士が判断する
一覧化はAIの仕事ですが、どの事例を採用するかの判断は鑑定士の仕事です。鑑定評価は不動産鑑定士の独占業務であり、事例の選択・比準・評価の判断をAIに委ねることはできません。当事務所ではAIの役割を「一覧表を作るまで」と明確に線引きしています。
第4章: 同じ型は他業務にも応用できる
「フォルダの資料を読ませ、決まった項目を抜き出し、要確認付きで一覧化する」という型は、事例整理に限らず使い回せます。当事務所では評価書ドラフトの納品前チェックにも同じ発想を適用し、目視で1〜2時間かかっていた確認が15分程度の「指摘の採否判断」に変わりました。こうした周辺業務の効率化の積み重ねにより、直近の裁判案件では受任から18日で鑑定評価書を納品できています。
まとめ
- 事例整理の時間の大半は「探す・写す・整える」であり、ここはAIに移せる。当事務所の実測で180分→30分
- 精度は「元資料からの転記徹底・要確認報告・採否は鑑定士」の3つの設計で守る
- 同じ型は納品前チェックなど他業務にも応用でき、事務所全体の納期短縮につながる
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