はじめに
「ChatGPTは触ってみたけれど、結局、調べものに使うくらいで止まっている」
そんな声を同業の先生方からよく伺います。実は私たち鑑定士の実務で本当に効くのは、チャット画面に文章を貼り付けて質問するタイプのAIではなく、パソコンの中のファイルを直接読み書きして作業してくれるタイプのAIです。
その代表格が Claude Code(クロードコード:生成AIが自分のパソコンのフォルダを読み書きし、資料の読み込みから成果物の作成までを一括して行う「エージェント型」のツール)です。当事務所では鑑定業務の中で日常的に使っており、たとえば取引事例の整理・一覧化は、従来180分かかっていた作業が30分程度になりました。
本記事では、チャット型AIとの違い、鑑定事務所での具体的な使い方、そして「やってはいけないこと」まで、自社で毎日使っている実務の言葉でご説明します。
第1章: Claude Codeはチャット型AIと何が違うのか
「聞けば答える」と「頼めば作業する」の違い
ChatGPTに代表されるチャット型AIは、質問すれば答えてくれますが、資料は人間が1件ずつコピーして貼り付ける必要があります。取引事例のPDFが30件あれば、30回貼り付けることになり、その時点で挫折します。
Claude Codeは発想が異なります。日本語でこう頼むだけです。
「このフォルダに入っている事例PDFを全部読んで、所在・取引時点・価格・面積・単価の一覧表をExcelで作って」
すると、フォルダ内のPDFを自分で開いて読み、項目を抽出し、体裁の整ったExcelファイルを作成するところまでを一気に行います。人間の仕事は、出来上がった表を元資料と突き合わせて確認することです。
プログラミング知識は不要
「Code」という名前から開発者向けツールと思われがちですが、指示はすべて日本語の文章です。コマンドやプログラミングの知識は要りません。必要なのは「何を頼むべきか」「成果物の良し悪しを見分ける目」であり、これはむしろ実務経験の長い先生ほど持っているものです。
第2章: 当事務所の実例3つ
実例1: 取引事例の整理・一覧化(180分 → 30分)
事例資料のPDFをフォルダに入れて一覧化を頼むと、転記・整形・単価計算までが自動で終わります。ポイントは、単価などの数値を必ず元資料から転記させ、AIの記憶で補完させないよう指示を型化しておくことです。読み取れない項目は空欄にして「要確認」と報告させます。
実例2: 鑑定評価書の納品前チェック
納品前の鑑定評価書ドラフトを読ませて、誤字・脱字、数値の検算(単価×面積と表示額の一致、本文と別表の突合)、日付の整合(価格時点・実地調査日・作成日の前後関係)、章番号の欠番、空白ページなどを一括で洗い出させます。
人間の目視レビューでは1〜2時間かかっていた確認作業が、15分程度の「指摘一覧の採否判断」に変わります。直近の裁判所提出案件でも、このチェックを納品前に通し、体裁面の修正点を事前に潰したうえで納品しました。
実例3: 事務書類と情報発信
見積書・請求書のドラフト作成、依頼者向けのご説明文書、事務所ブログやSNSの下書きなど、鑑定評価そのものではない周辺業務にも幅広く使えます。当事務所では、こうした事務作業の積み重ねが削減されたことで、直近の案件を受任から18日で納品できました。
第3章: やってはいけないこと(ここが一番大事です)
鑑定評価の判断はAIに委ねない
鑑定評価は不動産鑑定士の独占業務です。手法の適用、試算価格の調整、鑑定評価額の決定といった判断をAIに行わせることはできません。当事務所では、AIの役割を資料整理・下書き・チェックまでと明確に線引きし、判断が必要な場面ではAIが作業を止めて鑑定士に質問を返すよう仕組みで担保しています。
この線引きは、依頼者への説明責任の観点でも重要です。詳しくはChatGPTを鑑定評価書作成に使う際の注意点もあわせてご覧ください。
機密情報は「設定・ルール・運用」の3段構えで守る
依頼者情報を扱う以上、セキュリティは避けて通れません。当事務所では次の3段構えにしています。
- 設定: 入力データがAIの学習に利用されない設定を必ず有効にする(有料プランで設定可能です)
- ルール: 入力してよい情報・いけない情報を1枚のAI利用規程にして明文化する
- 運用: 案件フォルダの中だけで完結させる使い方を習慣にする
出力は必ず検証する
生成AIは、もっともらしい誤り(ハルシネーション:AIが事実と異なる内容を自信を持って出力してしまう現象)を含むことがあります。数値・出典・固有名詞・論理の4点を人間が確認する。この検証の習慣とセットで使うことが、実務利用の絶対条件です。
第4章: 導入のはじめ方
小さく始めて、2週間で最初の成果を
最初から全業務に入れる必要はありません。おすすめは次の順序です。
- 業務の棚卸し: 頻度が高く、型が決まっていて、時間がかかっている業務を洗い出す
- 1つ選んで型化する: 最初の1業務(当事務所の場合は事例整理でした)で成果を体感する
- 習慣とルールを整える: 検証の型とAI利用規程を先に用意してから、所内に広げる
「効果が出るのか分からないまま高額なシステムを入れる」のではなく、月数千円〜数万円のAI利用料で小さく始められるのが、この分野の良いところです。
まとめ
- Claude Codeは「聞けば答える」ではなく「頼めば作業する」エージェント型のAIで、指示は日本語だけ
- 当事務所の実測では、取引事例の整理が180分から30分になり、納品前チェックも大幅に短縮
- ただし、鑑定評価の判断はAIに委ねない線引きと、機密の3段構え・検証の習慣が絶対条件
当社は、現役の鑑定事務所として自社の実務でAIを使い込んだうえで、同業の先生方・士業事務所の皆様への導入支援(環境構築・業務の型化・研修・伴走)を行っています。「自分の事務所のどの業務から始めるべきか」を知りたい方は、無料相談をご利用ください。AIに任せてよい業務・いけない業務の線引きをまとめた無料資料「鑑定士のためのAI活用入門」もこちらからダウンロードいただけます。
