「士業もX(旧Twitter)で発信すべきだと言われた。でも、投稿して本当に問い合わせが来るのか分からない」——HPやAI活用のご相談の中で、こうした迷いをよく伺います。士業のX運用は、始めるのは簡単でも、効果が見えないまま更新が止まりやすい施策です。
結論から申し上げます。士業のX運用は、フォロワー数がそのまま問い合わせ数になる施策ではありません。効果が出るのは、投稿を見た人が後日あなたの事務所名で検索したり、紹介元が「この先生は発信しているから安心だ」と判断したりする、遠回りの経路です。そのため、依頼者層がXを使っていない業務では成果が出にくく、逆に同業・紹介元・若い世代の依頼者と接点を持ちたい事務所には向いています。
当事務所(株式会社KRE Appraisal)も、鑑定事務所としてXアカウントを運用しています。この記事では、私たち鑑定士が公的統計と自社の運用方針をもとに、X運用が問い合わせにつながる経路、向き不向きの見分け方、投稿を続けるための仕組みを整理します。
士業のX運用が問い合わせに直結しない理由
依頼が生まれる瞬間に、Xは開かれていない
相続が発生した、離婚の話し合いが始まった、会社の売却を考え始めた——士業への依頼は、多くの場合こうした出来事をきっかけに生まれます。そのとき人が最初にするのは、Xを眺めることではなく、Googleで「相続 不動産 評価 誰に頼む」のように検索することです。
Xのタイムラインは「今は困っていない人」に情報が流れる場所です。投稿を見た瞬間に依頼する人はほとんどいません。ここを取り違えて「毎日投稿しているのに問い合わせがゼロ」と判断し、数か月でやめてしまう事務所が少なくありません。
依頼者の年代とXの利用率がずれている
総務省情報通信政策研究所「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、Xの利用率は全年代で43.3%です。年代別では20代78.0%、30代61.6%、40代48.7%、50代43.6%に対し、60代は22.1%、70代は8.1%まで下がります。
| 年代 | Xの利用率 | 士業の依頼との関係(例) |
|---|---|---|
| 20〜30代 | 61.6〜78.0% | 起業・許認可・離婚 |
| 40〜50代 | 43.6〜48.7% | 親の相続の準備・事業承継 |
| 60〜70代 | 8.1〜22.1% | 自身の相続・遺言 |
自身の相続や遺言を考える60代以上には、Xはほとんど届きません。届くとすれば、親の相続を心配する40〜50代の子世代です。「誰に届けたいか」を決めないまま投稿すると、届かない層に向けて書き続けることになります。
SNS集客としてのX運用が効く3つの経路 — 検索・指名・紹介
経路1:投稿が「指名検索」を生む
Xで繰り返し専門的な投稿を目にした人は、いざ困ったときに事務所名で検索します。これを指名検索(事務所名やサービス名そのものでの検索)といいます。指名検索で来た人は比較検討をほぼ終えているため、一般キーワードで来た人より問い合わせにつながりやすいのが特徴です。
効果はXの管理画面ではなく、Googleサーチコンソールの「事務所名を含む検索語」の表示回数で確認します(GA4の見方は5つの指標で足りる)。
経路2:紹介元が「確認」に使う
士業の依頼の多くは紹介から来ます。紹介を受けた人や紹介する側の税理士・弁護士・仲介業者は、事前に名前を検索し、HPやSNSを確認します。そこで最近の投稿が並んでいれば「今も活動している専門家だ」と判断できます。最終投稿が2年前のアカウントは、むしろ逆効果です。
経路3:ブログ記事・動画への入口になる
Xの投稿単体で専門性を伝えきるのは困難です。当事務所では、Xは「詳しい解説(コラム・動画)への入口」と位置づけています。検索で見つかる記事を本体に据え、Xはそこへ人を運ぶ役割に限定すると、投稿の目的がぶれません(士業ブログの書き方)。
士業のX運用に向く事務所・向かない事務所
向き不向きは「依頼者層」と「紹介網」で決まる
| 想定事務所 | 主な依頼者 | X運用の向き |
|---|---|---|
| A:起業支援中心の行政書士 | 20〜40代の個人事業主 | 高い。依頼者がXにいる |
| B:法人顧問中心の税理士 | 地元企業の経営者 | 中程度。紹介元の確認用 |
| C:高齢者の遺言・相続が中心の司法書士 | 60代以上の本人 | 低い。届く層が子世代に限られる |
Cの事務所でも、Xをやる意味がゼロになるわけではありません。ただし優先順位は、Googleビジネスプロフィールや自社サイトのコラムの方が上です(Googleビジネスプロフィールは士業の集客に効くのか)。
かける時間を「回収できるか」で試算する
X運用の費用は、主に所長やスタッフの時間です。仮に1日15分を投稿に使うと、月30日で7.5時間。所長の時間単価を5,000円とすると、月37,500円、年45万円相当の投資になります。
受任1件あたりの粗利が15万円の業務なら、年3件、X経由(指名検索・紹介元の確認を含む)の受任が増えれば回収できる計算です。月あたり0.25件です。これを見込めるかは、上の表で依頼者層がXにいるかどうかでほぼ決まります。数値はいずれも仮定ですが、私たち鑑定士は不動産の投資判断と同じく、かける時間を投資額として置き、回収できる水準かを先に確かめることをおすすめします。
当事務所がXを続けるために組んだ仕組み
投稿は「候補を毎朝用意し、人が選んで出す」
X運用が止まる最大の理由は、毎日ネタを考える負担です。当事務所では、AIが毎朝、不動産の豆知識や関連ニュースをもとに投稿候補を10件作り、社内の管理画面に並べる仕組みを自社で構築しました。代表は通勤中にその中から選び、必要なら手を入れて投稿します。
ゼロから書くのではなく「選んで直す」作業に変えたことで、1回あたりの作業は数分になりました。毎朝の定型作業をスケジュール実行に載せる考え方は、定型業務の自動化で年間何時間浮くかで詳しく解説しています。
自動投稿はあえてしない
技術的には、投稿まで自動化することもできます。それでも当事務所は、最後の投稿は人が行う運用を選びました。理由は2つあります。
1つ目は品質です。専門家名義の発信で、AIの書いた誤り(ハルシネーション=AIがもっともらしい誤情報を生成すること)がそのまま出るリスクは許容できません。2つ目は費用です。XのAPI(外部のプログラムから投稿するための接続口)は従量課金で、自動投稿にはその分の費用がかかります。人が選ぶ数分の手間で、品質と費用の両方を守れると判断しました。
書かないことを先に決める
士業の発信には、職業上の規律がかかります。たとえば弁護士には日本弁護士連合会の「弁護士の業務広告に関する規程」があり、他の士業にも各会の広告規程があります。当事務所の投稿ルールでは、次のことを書かないと決めています。
- 「必ず値上がりする」などの断定的な投資助言
- 個別案件が特定できる情報(守秘義務に直結します)
- 他の事務所や業者を名指しした批判
また、第三者に依頼して事務所を紹介してもらう場合、広告であることを隠すと景品表示法のステルスマーケティング規制(2023年10月1日施行の告示)に触れるおそれがあります。具体的な可否は、所属会の規程をご確認のうえ、必要に応じて弁護士にご確認ください。
まとめ
士業のX運用は、投稿が直接の問い合わせを生む施策ではなく、指名検索・紹介元の確認・記事への誘導という遠回りの経路で効く施策です。要点を振り返ります。
- 依頼が生まれる瞬間に人が使うのはGoogle検索であり、Xではない
- Xの利用率は60代22.1%、70代8.1%。高齢の本人が依頼者の業務には届きにくい
- 効果はフォロワー数ではなく、サーチコンソールの指名検索の推移で測る
- 投稿時間を投資額に換算し、回収できる受任数を先に試算する
- 続けるには「毎朝の候補作成はAI、選んで投稿するのは人」の分担が有効
- 広告規程・守秘義務・ステマ規制に触れない「書かないこと」を先に決める
これからXを始めるか迷っている事務所代表の方は、まず依頼者層と紹介網の表で自事務所の向き不向きを確かめてください。向いていると判断できたら、ネタ切れで止まらない仕組みを最初に用意することが、継続の近道です。
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