「MEO対策をやりませんか、という営業電話が来た。月額を払う価値があるのか判断できない」——士業の先生から、このご相談をよくいただきます。
結論から申し上げます。Googleビジネスプロフィール(検索結果とマップに事業者情報を無料で掲載できる仕組み。旧称Googleマイビジネス)は、登録と初期設定だけなら費用ゼロで、やらない理由がありません。ただし、登録すれば相談が増えるかというと、事務所によってはっきり差が出ます。
当事務所は不動産鑑定業を営みながら、自社サイトを自前で運用しています。この記事では、私たち鑑定士が公式ガイドラインで確認した要件に沿って、登録できる事務所の条件・表示を左右する設定・運用の優先順位を整理し、最後に効果が出やすい事務所とそうでない事務所を率直に切り分けます。
ビジネスプロフィールは入口であって、HPの代わりではない
検索結果とマップに出る、無料の掲載枠
「江戸川区 税理士」のように地域名と職種で検索すると、通常の検索結果より上に、地図と3件程度の事業者カードが表示されます。この枠を狙う施策が、一般にMEO(Map Engine Optimization=地図検索最適化)と呼ばれるものです。
重要なのは、この枠がホームページのSEOとは別の土俵だという点です。サイトが検索10位でも地図枠には出うる。逆に、サイトが強くてもプロフィールが未登録なら地図枠には出ません。
掲載できるのは定型情報だけ
掲載できるのは名称・住所・電話・営業時間・カテゴリ・写真・投稿といった定型情報のみで、業務の進め方や費用の考え方を伝える場所はありません。地図枠で見つけてもらい、サイトへ移動して判断してもらう——あくまで入口です(士業のホームページで集客できないのはなぜか)。
まず確認すべきは「登録できる事務所かどうか」
適格性の要件は「対面」
Googleは掲載の適格性について、営業時間内に顧客と直接対応するビジネスであることを求めています。オンライン専業の事業や、私書箱住所だけの事業は掲載対象外です(Google ビジネス プロフィール ヘルプ「ビジネスの適格性とオーナー権限に関するガイドライン」)。
士業事務所は来所面談を受け付けている限り、通常この要件を満たします。問題になりやすいのは、バーチャルオフィスの住所だけで来客対応の実態がないケースです。掲載停止のリスクがあります。
自宅兼事務所なら「サービス提供地域」で登録する
住所を公開したくない場合は、住所を非表示にし、代わりにサービス提供地域を設定します。公式ガイドラインでは、拠点で商品やサービスを提供していない場合は住所を削除するよう案内されており、サービス提供地域は最大20か所まで、市区町村や郵便番号で指定します。半径距離での指定はできず、境界は拠点から車で約2時間以内に収めることが求められています(同ヘルプ「非店舗型ビジネスとハイブリッド型ビジネスのサービス提供地域を管理する」)。「全国対応」と広げるのは仕組み上ふさわしくありません。
プロフィールは事務所で1つ、確認方法は選べない
Googleは「個人専門家」という区分を設けており、弁護士などが該当します。条件は、対外的に専門業務を行う本人であることと、オーナー確認された事業所で営業時間内に本人に直接連絡が取れることです。同一人物が複数のプロフィールを作ることは認められておらず、所長個人と事務所の2つを作って地図枠を二重に取る運用は規約違反です(同ヘルプ「Google に掲載するビジネス情報のガイドライン」)。
また、登録後はオーナー確認が必要です。電話・メール・郵送・動画などの手段がありますが、どれが提示されるかはGoogle側が自動で決めるため、申請者は選べません。
動画確認でつまずかないために
「外観 → 看板 → 入口 → 室内 → 業務中の様子 → 管理用PCの操作」という順番を決めてから、一度も止めずに撮ることです。途中で切れた動画や、室内だけの動画は却下されやすくなります。
表示を左右する設定 — カテゴリ・名称・情報の密度
主カテゴリ1つで、ほぼ勝負が決まる
最も効くのはカテゴリです。「税理士事務所」「行政書士事務所」といった士業向けのカテゴリは用意されており、選んだ主カテゴリが、どの検索語で地図枠の候補に入るかを大きく左右します。
注意点は、主カテゴリを1つしか設定できないことです。副カテゴリの影響は主カテゴリほど大きくありません。複数業務を扱う事務所ほど、「最も相談を増やしたい業務」を主カテゴリに据える判断が要ります。
ビジネス名にキーワードを足さない
「○○税理士事務所|江戸川区 相続税申告に強い」のような名称はガイドライン違反です。Googleは、ビジネス名にサービスや商品の情報を含めてはいけないと明記しています。掲載停止や名称の強制修正につながり、短期的に順位が上がっても割に合いません。
埋める項目には優先順位がある
すべてを完璧にする必要はありません。相談につながりやすい順に手を付けてください。
| 優先度 | 項目 | 理由 |
|---|---|---|
| 最優先 | 主カテゴリ・名称・電話・サイトURL | 表示対象になるかと、連絡手段が決まる |
| 高 | 営業時間・サービス提供地域・サービス欄 | 検索語との一致と、来所可否の判断材料 |
| 中 | 説明文・写真 | 選ばれる段階で効く |
| 低 | 投稿・商品欄 | 継続運用が前提で、単発では効果が薄い |
営業時間は実態と違う時間を入れないでください。「電話がつながらない」という体験は、口コミという形で長期に残ります。
投稿・写真・口コミをどこまでやるか
投稿は6か月でアーカイブされる
「投稿」機能はありますが、期間を指定しない通常の投稿は公開から6か月でアーカイブされ、イベントや特典の投稿は設定した終了日を過ぎるとアーカイブされます。積み上がる資産ではなく、流れていくお知らせです。ここに毎週コラムを書くくらいなら、同じ労力を自社サイトのコラムに投じ、プロフィール側には要約とリンクを月1〜2回置く運用が現実的です。
写真は「外観と入口」が最優先
最も役に立つのは、きれいな応接室の写真ではなく、初めて来る人が迷わないための外観・入口・ビルの入口表示です。地図を見て現地に着いた人が最後に確認するのがこの写真だからです。
口コミは「数が集まらない前提」で設計する
士業の口コミは、飲食店のようには集まりません。相続・離婚・紛争といった領域ほど、依頼者は公開の場で名前を出したがらないからです。件数を目標にせず、必ず返信すること、返信で案件内容や属性に言及しないことの2点に絞るべきです。後者は守秘義務に直結します。口コミの依頼が職務上の規律に触れないかは、所属会の会規や広告規程をご確認ください。
効果が出やすい事務所と、出にくい事務所
差を生むのは「依頼者が地域で探すかどうか」
ここが本記事の核心です。ビジネスプロフィールが効くのは、依頼者が「近くの専門家」を探す業務に限られます。代表は相続手続き、遺言、会社設立、許認可、登記など、初回相談を対面でしたい個人案件です。
一方、法人の顧問契約や専門性の高い係争案件は、紹介や指名で決まるか、専門性を軸にサイトで比較されます。当事務所が扱う鑑定評価でも、係争・M&A関連のご依頼は地域検索からはほとんど来ません。
| 想定事務所 | 主な業務 | 想定される効き方 |
|---|---|---|
| A:区内の相続中心の司法書士 | 相続登記・遺言 | 高い。地域名+業務名で探される |
| B:法人顧問中心の税理士 | 月次顧問・決算 | 低い。紹介と指名が中心 |
| C:地域の個人案件も扱う鑑定事務所 | 相続・離婚の評価 | 中程度。地域案件のみ効く |
Bの事務所も、事務所名で検索された際に正しい情報が出る意味はあります。ただし月額を払って順位を追う施策の費用対効果は低いと考えるべきです。
費用対効果を、自分の数字で見積もる
外部業者のMEO代行は、月額1万円台から5万円程度の幅があります。仮に月3万円(年36万円)、受任1件あたりの粗利が10万円の業務なら、年間4件の増加で初めて回収という計算です。月あたり0.3件になります。
この0.3件が見込めるかは月間検索数から逆算できます。「○○市 相続 司法書士」の検索数が月50、地図枠3位以内のクリック率を仮に15%とすると月7〜8クリック、問い合わせ率10%で月0.7〜0.8件、受任率5割で月0.35〜0.4件。ぎりぎり成立する水準です。月10件しかない地域なら成立しません。
数値はいずれも仮定ですが、この5つを自分の数字で一度置いてみることをおすすめします。計算せずに月額契約を結ぶのが、最もよくある失敗です。
順位ではなく、電話タップ数を見る
管理画面には表示回数・検索語・電話タップ数・サイトクリック数が出ます。見るべきは順位ではなく、電話タップ数とサイトクリック数の推移です。順位は検索する人の現在地で変わるため、自分で検索しても意味がありません。
また、検索の入口はGoogleの検索結果だけではなくなりつつあります。生成AIに「近くの相続に強い専門家」と尋ねる行動も増えており、そこでの見え方は自社サイトの記述に依存します(LLMO対策で今すぐやる5つのこと)。
まとめ
登録と初期設定は無料でできる施策であり、士業事務所なら例外なくやっておくべきものです。一方で、そこから相談が増えるかは業務の性質で決まります。要点を振り返ります。
- 適格性の要件は「営業時間内に対面対応できること」。実体のない住所での登録は避ける
- 自宅兼事務所は住所非表示+サービス提供地域(最大20か所・車で約2時間以内)で登録する
- 最も効く設定は主カテゴリ。ビジネス名へのキーワード追加はガイドライン違反
- 投稿は6か月でアーカイブされる。文章の労力は自社サイトのコラムに寄せる
- 口コミは件数を追わず、返信と守秘の徹底に絞る
- 外注の検討前に「検索数 × クリック率 × 問い合わせ率 × 受任率 × 粗利」で回収可否を試算する
地域からの相談を増やしたい事務所代表の方は、まず無料でできる登録・カテゴリ選択・基本情報の充実をご自身の手で終わらせてください。そのうえで3〜6か月の数字を見れば、外注すべきかは自ずと判断できます。自社サイト側も見直すなら、地域キーワード選定の実務も併せてご覧ください。
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