はじめに
「民間案件ではAIを使い始めたが、地価公示や固定資産税評価の仕事でも使ってよいのだろうか」
公的評価に携わる鑑定士なら一度は考える論点です。最初に結論を申し上げます。公的評価業務では、依頼元である各機関の情報取扱ルールが何よりも優先されます。 AIが技術的に何をできるかという話は、その次です。
当社は民間の鑑定実務でAIを日常運用しており、たとえば取引事例の整理・一覧化は180分の作業が30分になりました。本記事では、その経験を踏まえつつ、公的評価という特殊な業務領域でのAI活用の現在地を、あくまで当社の私見として整理します。
第1章: 公的評価業務の特性 — 機関ルールが最優先
民間案件との決定的な違い
地価公示、都道府県地価調査、相続税路線価に係る評価、固定資産税評価。これらの公的評価業務は、依頼元の機関から提供される資料や様式に基づいて進める仕事です。提供資料の取り扱い、成果物の管理、使用するツールについて、各機関がそれぞれのルールを定めています。
重要なのは、これらのルールは機関ごと・年度ごとに異なりうるということです。本記事を含め、外部の記事や同業者の話を根拠に「使ってよい」と判断することはできません。ある機関で問題ないとされた運用が、別の機関では認められない可能性があります。
「便利かどうか」より先に「認められるか」
民間案件のAI活用は、機密管理と検証体制を自社で整えれば自社の判断で進められます。公的評価は違います。効率化の議論の前に、依頼元機関への確認という手順が必ず挟まる。この順序を飛ばさないことが、公的評価に携わる者の責任だと当社は考えています。
第2章: 使える可能性のある周辺作業(機関ルールの確認が前提)
機関のルールで認められる範囲であることを確認したうえで、という条件付きですが、次のような「自分の手元で完結する周辺作業」はAIが効く可能性があります。
自分の手元資料の整理
自ら収集した公開情報や、自分で作成したメモ・資料の整理・一覧化です。当社の民間実務では、この種の整理作業でAIの効果が最も大きく出ています。機関から提供された資料ではなく、自分の手元資料に限る点が肝です。
変動要因メモの下書き
担当地域の地価動向を検討する際の、公開統計や自分の観察メモをもとにした変動要因の整理・文章化の下書きです。もちろん、要因の評価と結論は鑑定士自身の判断であり、AIの出力は素材にすぎません。
文書の体裁チェック
自分が作成した文書の誤字脱字、表記ゆれ、数値の転記ミスの確認です。当社では評価書の納品前チェックにAIを使い、目視1〜2時間の確認が15分程度の指摘採否判断に変わりました。この型は、成果物の中身を外部に出さず手元で完結できるかを含めて、機関ルールとの整合を確認したうえでの適用となります。
第3章: 使うべきでない領域と、機関ルール確認の手順
評価判断はAIに委ねない
これは公的評価に限らずすべての鑑定業務に共通しますが、鑑定評価は不動産鑑定士の独占業務であり、価格の判断をAIに行わせることはできません。AIの役割は周辺作業までです。この点は AI鑑定動向の記事 でも繰り返し述べているとおりです。
機関提供データを外部ツールに投入しない
機関から提供された資料・データを、機関の許可なくAIツールに入力することは避けるべきです。学習に使わせない設定の有無にかかわらず、「外部のツールに機関データを渡してよいか」自体が機関の判断事項だからです。
確認の手順
当社が考える確認手順は次のとおりです。
- 使いたい業務と入力する情報の範囲を具体的に書き出す(「AIを使ってよいですか」という漠然とした質問にしない)
- 依頼元機関の担当窓口に、書面やメールなど記録が残る形で確認する
- 回答を文書として保管し、年度が替わったら再確認する
まとめ
- 公的評価業務では各機関の情報取扱ルールが最優先。外部記事や他者の運用を根拠に判断しない
- 使える可能性があるのは、自分の手元資料の整理・変動要因メモの下書き・自作文書の体裁チェックなど、手元で完結する周辺作業(それも機関確認が前提)
- 評価判断と、機関提供データの外部ツール投入は不可。確認は記録が残る形で行い、年度ごとに見直す
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