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Blog / 業界動向

電子契約は士業の業務に使えるか?鑑定評価書の電子交付と電子署名導入で押さえる論点

電子契約は士業の業務に使えるか?鑑定評価書の電子交付と電子署名導入で押さえる論点

「電子契約に切り替えたいが、士業の書類でも本当に大丈夫なのか」「鑑定評価書をPDFで渡してもよいのか」。押印と郵送の手間を減らしたい士業事務所の方から、こうしたご相談をいただきます。紙の契約書を印刷し、押印し、返信用封筒を同封して返送を待つ。1件なら小さな手間でも、毎月続けば事務所の時間を確実に削ります。

結論から申し上げます。受任書や業務委託契約の電子契約は、士業事務所でも十分に実用段階にあります。さらに鑑定評価書も、依頼者の承諾を得たうえで、不動産鑑定士本人の電子署名を付せば電子交付できます。ただし「PDFにしてメールで送る」だけでは足りず、承諾・署名の方式・原本の扱いという3つの論点を先に押さえる必要があります。

本記事では、私たち鑑定士が受任書の締結を電子契約に切り替えた際の実体験をもとに、電子契約と電子署名を士業の業務に入れるときの論点を整理します。鑑定評価書の電子交付については、法令と業界団体の整理に沿って解説します。

電子契約は士業の業務でどこまで使えるか

電子契約と電子署名の関係

電子契約とは、紙と押印の代わりに、電子データ(PDFなど)と電子署名で契約を結ぶ方法です。電子署名とは、電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)第2条第1項が定める、その電子データを誰が作成したかを示し、改変されていないことを確認できる措置を指します。

市販の電子契約サービスの多くは「立会人型(事業者署名型)」と呼ばれる方式で、利用者の指示に基づいてサービス事業者が署名を付します。この方式も、利用者の意思で署名されたことが明らかであれば電子署名法第2条第1項の電子署名に該当しうることが、2020年7月に総務省・法務省・経済産業省が公表したQ&Aで示されています。

受任書・業務委託契約は電子化しやすい

士業事務所の書類のうち、最も電子化しやすいのが依頼者との受任書や業務委託契約です。契約は当事者の合意で成立し、原則として書面や押印は成立の要件ではないからです。

加えて、電子契約には印紙税の面での違いもあります。国税庁は、電磁的記録で作成された契約は印紙税の課税対象となる「文書」に当たらないとする考え方を示しています(印紙税法基本通達第44条、国税庁の文書回答事例)。個別の書類が課税文書に当たるかどうかは、税理士にご確認ください。

電子化に向かない場面もある

一方で、相手方の受入体制によっては紙が残ります。高齢の個人の依頼者でメールの操作に不安がある方、社内規程で紙の原本しか受け付けない金融機関や企業などです。電子契約は「相手が受け取れて初めて成立する仕組み」だと考えてください。当事務所では電子契約を標準としつつ、紙を希望される方には紙で対応する二本立てにしています。

鑑定評価書は電子交付できるのか

鑑定評価法の3つの義務と電子化の根拠

不動産の鑑定評価に関する法律(以下、鑑定評価法)第39条は、鑑定評価書について3つの義務を定めています。第1項が依頼者への交付、第2項が関与した不動産鑑定士の資格表示と署名、第3項が写しの保存です。なお鑑定評価書への押印は、デジタル社会形成整備法(令和3年法律第37号)による改正で2021年9月1日に廃止されました。

鑑定評価法そのものには電子化の条文がありません。電子化の根拠になるのは、e-文書法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律)と、その国土交通省の施行規則です。日本不動産鑑定士協会連合会が2022年3月に公表した「不動産鑑定評価書の電子化に関するQ&A」は、次のように整理しています。

鑑定評価法の規定電子化での対応根拠
交付(第39条第1項)電磁的方法で交付できるe-文書法第6条
署名(第39条第2項)電子署名で代えられるe-文書法第4条第3項
保存(第39条第3項)電磁的記録で保存できるe-文書法第3条

依頼者の承諾が必須

電磁的方法で交付するには、交付の相手方である依頼者の承諾が必要です(e-文書法第6条)。口頭の了解で済ませず、依頼書や受任書の交付方法欄に「電子交付を承諾する」旨を記載してもらう、あるいは承諾書を取り交わすといった形で記録を残しておくべきです。

署名は鑑定士本人の電子署名で

電子署名は、電子署名法第2条第1項の電子署名に当たるものでなければなりません。前述のQ&Aは、市販のPDF編集ソフトの改ざん防止機能による署名は、この電子署名に該当しないおそれがあり、鑑定評価法違反となりうると注意を促しています。また、署名するのは関与した不動産鑑定士本人であり、鑑定業者(会社)としての電子署名は必須ではないと整理されています。

鑑定評価書を電子交付するときの実務論点

紙と電子の「原本」を二重に出さない

提出先から電子版と紙の両方を求められることがあります。前述のQ&Aは、電子署名付きの鑑定評価書と署名した紙の鑑定評価書を両方交付すると、原本の形式を持つものが複数存在することになり望ましくないとしています。紙を求められた場合は署名をせず、写しとして渡すのが原則です。

コピーがすべて「正本」になる

電子署名付きのファイルは、複製してもすべてが正本として扱われます。紙であれば正本と副本の部数を管理できましたが、電子では依頼者が第三者へ転送すれば、そのまま正式な鑑定評価書が届きます。だからこそ鑑定評価書の「依頼者、提出先等及び利害関係等の確認」欄で提出先を明確にし、提出先が広がる場合は事前に当事務所の承諾を得ていただく旨を、依頼者に丁寧に説明することが欠かせません。

訂正は「差し替え」ではなく再発行になる

電子交付した鑑定評価書に誤りが見つかった場合、紙のように回収して差し替えることはできません。訂正は、鑑定評価を行った日と発行日を新たな日付に改めて電子署名をやり直す、実質的な再発行になります。電子化は作業を速くしますが、最終チェックの重みはむしろ増すと考えてください。

当事務所が電子署名サービスの導入でつまずいた3つの点

印鑑欄しか置かず、記入欄が空欄のまま締結された

当事務所では受任書の締結を電子契約サービスに切り替えました。最初につまずいたのは、紙の様式をそのままPDFにして、署名欄(電子印鑑)だけを配置したことです。依頼者の住所・氏名・電話番号を記入する欄が下線のまま残り、電子印影だけが押された状態で締結されてしまいました。

署名者の氏名・メールアドレス・署名日時はサービス側に記録されているため、契約の効力に問題はありません。しかしPDF単体を見た第三者には、依頼者名が印影にしか見えません。現在は、記入欄にテキスト入力欄を配置するか、様式側から電子契約で不要な記入欄を削る運用にしています。

署名の順番は「自分が先」にした

当初は依頼者に先に署名していただき、その後に当事務所が署名する順番にしていました。すると依頼者の署名完了の通知を待って、後日もう一度署名作業をすることになります。現在は当事務所を第1署名者にし、送信直後にその場で自社の署名を済ませています。依頼者には当事務所が署名済みの状態で届くため、依頼者から見ても自然な流れです。

証明書類の置き場所を把握しておく

締結後に保管すべきものは、締結済みのPDFだけではありません。署名者ごとの署名日時・IPアドレス・操作内容が記載された「締結証明書」も併せて保管しておくと、後日の確認に耐えられます。ところがサービスによっては、この証明書が封筒(契約単位)の画面ではなく、文書単位の詳細画面の奥にあります。導入初日に一度、ダウンロードまで通して確認しておくことをおすすめします。電子で受け取ったデータの保存方法は、電子帳簿保存法の対応でつまずくのは「保存」ではなく「検索」— ファイル命名規則とフォルダ構成の実務も参考にしてください。

電子契約の導入効果を試算する

想定されるケース:月5件の受任書を郵送している事務所

受任書を毎月5件、郵送で取り交わしている事務所を想定します。送付と返信用を合わせてレターパックライト2通(430円×2)、印刷・封入・宛名書きに1件あたり15分かかるとします。

項目郵送電子契約
郵送費(月)4,300円0円
準備作業(月)75分約15分
締結までの日数4〜7日当日〜翌日

郵送費は860円×5件で月4,300円、年間では約5万円です。準備作業は月60分ほど減り、年12時間になります。電子契約サービスは無料プランで月数通まで送れるものもあり、小規模事務所であれば費用をかけずに始められます。

数字以上に効くのは「着手までの日数」

実際に効果を感じたのは、郵送費よりも締結までの日数です。当事務所の実例では、送信から依頼者の署名完了まで16分、当事務所の署名まで含めて17分でした。郵送であれば、発送・到着・返送で1週間近くかかっていた工程です。受任から着手までが短くなれば、納期に余裕が生まれ、依頼者の満足度にも直結します。事務所全体の電子化をどの順で進めるかは、鑑定事務所のDXはどこから手を付けるか — 90日で変わるロードマップで整理しています。

まとめ

電子契約は、士業事務所でも受任書・業務委託契約から無理なく導入できます。鑑定評価書も電子交付できますが、承諾・電子署名の方式・原本の管理という論点を押さえてから踏み出すべきです。

要点を振り返ります。

  • 受任書・業務委託契約は電子化しやすく、印紙税の面でも違いがある(個別判断は税理士にご確認ください)
  • 鑑定評価書は、e-文書法に基づき交付・署名・保存のいずれも電子化できる
  • 電子交付には依頼者の承諾が必須で、記録に残す形で取得する
  • 署名は電子署名法第2条第1項の電子署名で、関与した不動産鑑定士本人が行う。PDFソフトの署名機能では足りないおそれがある
  • 電子署名付きのファイルは複製もすべて正本になるため、提出先の確認と訂正時の再発行に注意する
  • 導入時は記入欄の配置、署名の順番、締結証明書の保管場所を最初に確認する

押印と郵送の手間を減らしたい鑑定事務所・士業事務所の方、電子契約を入れたものの運用が定まっていない方は、まず受任書1種類から電子化し、様式と手順を固めるところから始めてください。

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鑑定評価書のAI作成から事務所のホームページ制作まで、鑑定事務所の業務に合わせた支援の全体像は不動産鑑定士のAI活用・IT支援のページでまとめています。

吉田 健人

代表取締役社長・不動産鑑定士

吉田 健人

外資IT企業でデータ分析・クラウドサービスの営業に従事した後、不動産鑑定士として独立。鑑定実務とITの両面の経験を活かし、同業の鑑定士事務所のIT化を支援している。

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