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電子帳簿保存法の対応でつまずくのは「保存」ではなく「検索」— ファイル命名規則とフォルダ構成の実務

電子帳簿保存法の対応でつまずくのは「保存」ではなく「検索」— ファイル命名規則とフォルダ構成の実務

「電子帳簿保存法への対応は、とりあえず請求書のPDFをフォルダに入れておけばいいんですよね」

士業事務所や小規模な会社の代表の方から、この確認をいただくことがあります。半分は正解です。ただし困るのは保存した瞬間ではありません。2年後、税務調査の場で「令和○年○月の××社への支払いの請求書を出してください」と言われたときです。そこで20分フォルダをさまよう事務所と30秒で出せる事務所の差は、保存したかどうかではなく、保存するときの名前の付け方で決まっています。

当社は不動産鑑定事務所として、請求書・領収書・契約書のほぼすべてをクラウド上で受け取り、紙を経由せずに保存する運用を回しています。本記事では、電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)が求める保存要件を整理したうえで、小規模事務所が運用しきれる粒度の命名規則とフォルダ構成を提示します。なお制度の適用可否や会計処理の判断は税理士にご確認ください。

電子帳簿保存法で本当に問われているのは「後から探せるか」

保存義務があるのは「電子で受け取ったもの」

電子帳簿保存法が定める保存方法は、帳簿をデータのまま保存する「電子帳簿等保存」、紙の書類を画像として保存する「スキャナ保存」、メールやウェブサイト経由で授受したデータを保存する「電子取引データ保存」の3つに分かれます。前の2つは任意で、紙で受け取った請求書を紙のまま保管しても違反にはなりません。

義務なのは電子取引データ保存だけで、2024年1月1日以後に行う電子取引が対象です。メール添付のPDF請求書、クラウド請求サービスからダウンロードした支払明細、ECサイトの購入履歴画面——これらを印刷して紙で保管し、元データを消す運用は認められません。

満たすべきは真実性と可視性の2つ

保存要件は2系統です。ひとつは真実性の確保で、(1)授受の前にタイムスタンプが付されたデータを受け取る、(2)受領後速やかにタイムスタンプを付す、(3)訂正や削除の履歴が残る(または訂正削除ができない)システムを使う、(4)訂正削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用する、のいずれかを満たせば足ります。市販のクラウドストレージを使う小規模事務所は、4つ目の事務処理規程で対応するのが現実的です。

もうひとつが可視性の確保で、ディスプレイやプリンタなどの機器とマニュアルの備付け、システム概要書の備付け、検索機能の確保の3点です。つまずくのはほぼ最後の検索機能です。

猶予措置があっても、データそのものの保存は免除されない

2023年度(令和5年度)の税制改正で、2024年1月1日以後は猶予措置が設けられました。保存要件どおりに保存できなかったことを所轄税務署長が相当の理由があると認め、かつ税務調査等の際にデータのダウンロードの求めと出力書面の提示・提出の求めの双方に応じられる場合、真実性・可視性の各要件は問われません。

ただし断言します。猶予措置が外すのは「要件」だけで、「データを保存しておくこと」自体は外しません。元のPDFを削除して紙だけ残す運用は猶予措置に乗っても認められず、しかも出力書面を提示できることが条件である以上、該当データを探し出せなければ意味がありません。制度がどう転んでも、探せる状態を作る作業からは逃げられないのです。

検索要件は3項目 — 免除される事務所も多いが、油断はできない

取引年月日・取引金額・取引先

検索機能として求められるのは、取引年月日その他の日付、取引金額、取引先の3項目による検索です。原則ではこれに加え、日付または金額の範囲指定検索と、2つ以上の項目を組み合わせた検索も必要とされています。

基準期間の売上高5,000万円以下なら検索要件は不要

もっとも、この3項目すべてが不要になる道があります。基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の売上高が5,000万円以下で、税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられる場合です。この基準額は2023年度税制改正で1,000万円以下から引き上げられ、2024年1月1日以後の電子取引に適用されています。出力した書面を取引年月日および取引先ごとに整理して提示・提出できる場合も検索要件は不要です。小規模な士業事務所の多くはこの基準に収まり、制度上は検索機能を用意しなくても違反にはなりません。

それでも命名規則を決めるべき理由

では何もしなくてよいのかというと、そうではありません。第一に、免除の条件は「ダウンロードの求めに応じられること」であり、求められた範囲を抽出して渡す作業は残ります。ファイル名がスマートフォンの写真のような連番なら、この抽出は目視になります。第二に、基準期間の売上高が5,000万円を超えた事業年度から検索要件は原則どおり必要になり、伸びた年に慌てて過去2年分のファイル名を直す事態は避けたいところです。

第三に、これが最も実務的ですが、探せないファイルは自分たちが困ります。税務調査は数年に一度でも、「あの案件の外注費いくらだったか」を確認する場面は毎月あります。命名規則は税務対応というより日常業務のための投資です。

ファイル名の設計 — 3項目を名前に埋め込む

基本形は「日付_取引先_金額_書類種別」

当社が使っている形は次のとおりです。区切り文字はアンダースコアに統一しています。

20260410_カブシキガイシャ〇〇_132000_請求書.pdf

先頭を日付にするのは、昇順ソートがそのまま時系列になるからです。ハイフンを混ぜず8桁で書くのは部分一致検索で年月だけを指定できるようにするためで、「202604」と打てばその月の書類がすべて並びます。金額は税込総額を、カンマも円記号も入れず数字だけで書きます。

日付は「受け取った日」ではなく「取引年月日」

実務で最も間違いが多いのがここです。4月10日付の請求書が4月15日にメールで届いた場合、ファイル名に書くのは20260410で、受信日ではありません。法令が求めているのは取引年月日その他の日付だからです。メールソフトの受信日でフォルダ分けしていると、ここで必ずずれます。

取引先名の表記ゆれを先に潰す

「株式会社〇〇」「(株)〇〇」「〇〇」が混在すると検索は機能しません。当社は法人格を省いたカタカナ表記に寄せ、正式名称との対応表を1枚のスプレッドシートで持っています。表記の候補が2つ以上ある取引先だけ書けば十分で、10社も書けば実務は回ります。

項目書き方
日付取引年月日を8桁20260410
取引先法人格を省いたカタカナカブシキガイシャ〇〇
金額税込・数字のみ132000
種別請求書/領収書/契約書請求書

フォルダ構成は「年度×区分」の2階層まで

階層を深くすると運用が崩れる

フォルダを細かく切りたくなる気持ちはわかりますが、階層を深くするほど「どこに入れるか迷うファイル」が生まれ、迷った瞬間にデスクトップへ仮置きされます。そこから戻ってきません。

当社は2階層で止めています。第1階層が事業年度、第2階層が「支払(受け取った請求書等)」「請求(発行した請求書等)」「契約」の3区分だけです。取引先ごとのフォルダは作らず、絞り込みはファイル名の検索で行います。命名規則を決めておけば、フォルダ分けの仕事はほとんど不要になるのです。

紙で受け取った書類はどう扱うか

紙の請求書は電子取引に当たらないため、紙のまま保管しても法令上は問題ありません。ただし保管場所が二重になると探す手間も二重になります。当社は紙もスキャンして同じフォルダに入れ、末尾に「_紙」と付けたうえで原本は原本で保管しています。法定のスキャナ保存に乗せる意図ではなく、検索性のための自主的な運用です。要件を満たして原本を廃棄したい場合はタイムスタンプ等の検討が別途必要になるため、税理士にご確認ください。

当事務所のクラウド運用と、導入にかかる手間の試算

受領から保存までの導線を1本にする

仕組みが続くかどうかは、保存までのステップ数でほぼ決まります。当社は共有ドライブに上記の2階層を作り、メール添付のPDFはその場でリネームして放り込む1動作に統一しています。ダウンロードフォルダを経由させると、リネーム前のファイルが溜まる場所が生まれるからです。置き場所を1つに絞る発想はGoogle Workspace導入で月10時間が削減できる理由でも触れたとおりです。発行側の請求書も、作成と同時に同じ命名規則で保存されるようにしておくと月末の整理が消えます(士業事務所の帳票自動化)。

事務処理規程は国税庁のひな形をベースに

真実性の確保を事務処理規程で満たす場合、規程を一から書く必要はありません。国税庁が電子帳簿等保存制度の特設サイトで法人用・個人事業者用のサンプルを公開しており、事務所名と適用開始日、担当者の役職名を埋めれば形になります。重要なのは作ることではなく、書いた運用を実際に行い備え付けておくことです。

想定されるケース:月60件の書類を扱う事務所

所長1名・スタッフ1名、月に受領・発行あわせて60件の書類が動く事務所を想定します。

項目現状(都度整理)命名規則の運用後
1件あたりの保存作業約40秒約20秒
月60件の保存作業40分20分
月末の整理・突合90分15分
1件を探す時間3〜20分30秒前後

効いてくるのは月末です。どこに何を入れたかを思い出す作業が消えるため、90分が15分程度になります。月あたり約95分、年間で約19時間。初期に必要なのは命名規則を紙1枚にまとめる作業と事務処理規程の整備、フォルダ作成で合計3時間ほどです。数字は当社の運用実感に基づく試算で、書類の量や既存の整理状況によって変わります。着手の順序は鑑定事務所のDXはどこから手を付けるかもあわせてご覧ください。

まとめ

電子帳簿保存法への対応は、専用システムを買うかどうかの問題ではありません。受け取ったデータを消さずに置き、後から探せる名前を付ける。この2つで、小規模事務所に求められる水準はおおむね満たせます。

要点を振り返ります。

  • 電子取引データの保存は義務。紙に印刷して元データを消す運用は認められない
  • 保存要件は真実性と可視性の2系統。クラウドストレージ利用なら事務処理規程で真実性を満たすのが現実的
  • 検索要件は取引年月日・取引金額・取引先の3項目。基準期間の売上高5,000万円以下でダウンロードの求めに応じられる場合は不要
  • 猶予措置が外すのは要件だけで、データ保存義務そのものは外さない
  • ファイル名は「日付_取引先_金額_種別」。日付は受領日ではなく取引年月日
  • フォルダは「年度×区分」の2階層まで。取引先はフォルダではなく検索で絞る

紙とPDFが混在したまま毎月の整理に追われている士業事務所の経営者様、これから電子化に踏み出す小規模事業者様は、システムの検討より先に命名規則を1枚の紙にまとめるところから始めてください。それだけで探す時間は目に見えて減ります。

ファイル管理の設計からクラウド環境の整備まで、当社は鑑定事務所として自社で使い込んだ運用をそのままご提供しています。何から手を付けるべきか整理したい方は無料相談をご利用ください。制度の適用判断や会計処理については顧問の税理士にご確認ください。

吉田 健人

代表取締役社長・不動産鑑定士

吉田 健人

外資IT企業でデータ分析・クラウドサービスの営業に従事した後、不動産鑑定士として独立。鑑定実務とITの両面の経験を活かし、同業の鑑定士事務所のIT化を支援している。

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