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Blog / IT基盤

バックアップの3-2-1ルールとは?事務所のデータが消えたら何日で復旧できるか、クラウド同期との違いから組む保全設計

バックアップの3-2-1ルールとは?事務所のデータが消えたら何日で復旧できるか、クラウド同期との違いから組む保全設計

「業務ファイルはすべてクラウドに入れてあるので、バックアップの3-2-1ルールまでは必要ない」。小規模な事務所の代表の方から、よく伺う言葉です。しかし、クラウドストレージの同期は、それだけではバックアップになりません。パソコン上でファイルが消えたり暗号化されたりすれば、その状態もクラウド側へ正確に同期されるからです。

結論から申し上げます。事務所のデータ保全は、バックアップの3-2-1ルール(データを3つ持ち、2種類の媒体に分け、1つは別の場所に置く原則)を土台に組めば、専門の担当者がいない事務所でも十分に実現できます。加えて「何世代前まで戻れるか」と「実際に戻せるか」を決めておけば、万一のときも数日ではなく数時間で業務を再開できます。

本記事では、私たち鑑定士が鑑定評価書や依頼者資料を扱う立場から、同期とバックアップの違い、3-2-1ルールの具体的な組み方、復旧までの時間の試算を整理します。

クラウド同期とバックアップの違い

同期は「消えた」「壊れた」もそのまま反映する

同期とは、パソコンとクラウドのファイルを常に同じ状態に保つ仕組みです。便利な反面、誤って上書きした、フォルダごと削除した、といった操作も即座にクラウドへ反映されます。

バックアップは、ある時点の状態を別の場所に複製して残しておくことです。「昨日の時点」「先週の時点」に戻れることが本質で、同期とは目的がまったく違います。

ランサム攻撃は同期フォルダごと暗号化する

ランサムウェア(ファイルを暗号化して身代金を要求する不正プログラム)に感染したパソコンは、見えている範囲のファイルを次々に暗号化します。同期フォルダも例外ではなく、暗号化されたファイルがそのままクラウドへ送られます。

IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」組織編でも、「ランサム攻撃による被害」は1位で、2023年版から4年連続の首位です。解説では、取引先を含むサプライチェーン全体に被害が及んだ事例にも触れられています。規模の小さな事務所も無関係ではありません。本記事は、侵入を防ぐ対策ではなく「被害を受けた後に戻せるか」に絞って考えます。

ゴミ箱と版の履歴には期限がある

多くのクラウドストレージには、削除したファイルを戻すゴミ箱や、過去の版に戻す履歴機能があります。ただし期限があります。たとえばGoogle ドライブのゴミ箱は、2020年10月から30日で自動削除される仕様です(Google Workspace Updates、2020年9月の告知)。

1か月以上気づかなかった削除や、過去の版の上限を超えた上書きは戻せません。履歴機能は「保険の一部」であって、バックアップの代わりにはならないと考えてください。

バックアップの3-2-1ルールとは

3つのコピー・2種類の媒体・1つは別の場所

3-2-1ルールは、データ保全の世界で広く使われている原則です。

  • 3:元データを含めて3つのコピーを持つ
  • 2:そのうち2つは種類の違う媒体に置く(例:クラウドと外付けHDD)
  • 1:少なくとも1つは事務所の外に置く

媒体を分けるのは、同じ種類の機器は同じ原因で同時に壊れやすいからです。事務所の外に置くのは、火災・水害・盗難のように、建物ごと失う事故に備えるためです。

3-2-1-1-0 — オフラインの1つと、復旧エラー0

近年は、3-2-1に「1」と「0」を足した3-2-1-1-0ルールも使われます。追加の「1」は、ネットワークから切り離した、または書き換えられない状態のコピーを1つ持つこと。「0」は、復旧テストでエラーが0であることを確認することです。

ランサム攻撃は、ネットワークでつながったバックアップまで暗号化しにいきます。普段は外しておく外付けHDDは、この攻撃に対する最後の砦になります。

小規模事務所に当てはめた構成例

専任の担当者がいない事務所でも回せる構成は、次のとおりです。

コピー置き場所守れる事故更新頻度
① 元データ業務用PC・クラウドストレージ(同期)PC1台の故障常時
② 世代バックアップ別のクラウドサービス、またはNAS誤削除・上書き・暗号化毎日自動
③ オフラインコピー外付けHDD(普段は外して保管)ランサム攻撃・アカウント停止週1回

③の外付けHDDを2台用意し、1台を自宅など事務所以外に置いて週ごとに入れ替えれば、火災・水害・盗難にも備えられます。

NAS(ネットワークにつなぐ事務所用のファイル保管装置)を使う場合も、②はネットワーク経由で書き換えられない設定(読み取り専用の世代保存)にしておくと安心です。

何を、何世代残すか — 鑑定評価書と依頼者資料の棚卸し

作り直せないものから優先順位を付ける

すべてのデータを同じ手厚さで守る必要はありません。優先すべきは、失うと作り直せないものです。

不動産鑑定業者の場合、鑑定評価書の写しと、対象不動産を明示する図面・写真などの資料は、5年間の保存が義務付けられています(不動産の鑑定評価に関する法律第39条第3項、同法施行規則第38条第2項)。現地調査の写真は、二度と同じ条件では撮れません。依頼者から預かった資料も同様です。

他の士業でも、業法や税法で保存期間が定められた書類があります。保存期間中の電子データを後から探せるようにする工夫は、電子帳簿保存法の対応でつまずくのは「保存」ではなく「検索」で整理しています。自事務所の保存義務の範囲は、所属団体の規程や顧問の税理士・弁護士にご確認ください。

世代は「気づくまでの期間」で決める

何世代残すかは、「異変に気づくまでに最長どれくらいかかるか」で決めます。月末にしか開かないフォルダがあれば、少なくとも1か月以上前に戻れる必要があります。目安としては、日次の世代を1か月分、月次の世代を1年分残す形をおすすめしています。

何日で復旧できるか — 想定されるケース

前提:3人事務所・業務データ200GB

所長と職員2名の事務所で、業務データが200GB、そのうち1台のPCがランサム攻撃を受け、同期先のクラウドのデータも暗号化された、という想定です。

体制戻れる時点復旧までの目安失うもの
同期のみ戻れない可能性が高い数週間(資料の再収集)ほぼすべて
外付けHDDに月1回手動コピー最大1か月前1〜2日最大1か月分の作業
3-2-1(日次世代+週1オフライン)前日半日程度最大1日分の作業

データを戻す時間を計算する

復旧時間の大半は、データを戻す作業そのものです。200GBをクラウドから実効100Mbps(1秒あたり100メガビット)の回線で戻す場合、次のように計算できます。

200GB × 8 = 1,600ギガビット。1,600ギガビット ÷ 0.1ギガビット毎秒 = 16,000秒、約4.4時間です。

PCの初期化や設定の時間を加えても、半日あれば業務を再開できる計算です。一方、バックアップが無い場合は、依頼者に資料の再送をお願いし、現地写真を撮り直すことになります。時間だけでなく、信頼の面での損失が大きくなります。

3-2-1ルールで回す当事務所のバックアップ運用

自動化できる部分は自動化する

当事務所は、業務ファイルをクラウドストレージで同期したうえで、パソコン単位のバックアップを別の仕組みで自動取得しています。Webサイトのソースコードは、変更履歴ごと別のサービスで管理しています。人の手を介す作業は、できるだけ少なくする方針です。

バックアップは「続けること」が最も難しい作業です。手作業を減らすほど、運用は崩れにくくなります。

復旧テストは四半期に1回でよい

バックアップを取っていても、いざ戻そうとしたら壊れていた、という事故は珍しくありません。3-2-1-1-0の「0」にあたる復旧テストは、四半期に1回、任意のフォルダを別の場所に戻して開けるかを確かめるだけで十分です。所要時間は30分程度です。

導入費用の目安

外付けHDDは2TBで1万円前後から購入できます。2台用意しても2万円程度です。世代バックアップ用のクラウドサービスは、容量に応じて月額数百円〜数千円が一般的です。事務所のデータ量を確認してから選ぶとよいでしょう。

まとめ

クラウドに同期しているだけでは、事務所のデータは守れません。バックアップの3-2-1ルールで複製の置き場所を分け、世代と復旧テストを決めておくことが、実際に「戻せる」保全の条件です。

要点を振り返ります。

  • 同期は削除や暗号化もそのまま反映するため、バックアップの代わりにならない
  • 3-2-1ルールは「3つのコピー・2種類の媒体・1つは別の場所」
  • ランサム攻撃に備え、普段はネットワークから外すオフラインコピーを1つ持つ
  • 世代は「異変に気づくまでの最長期間」を基準に決める
  • 200GBなら、3-2-1の体制で半日程度の復旧が見込める
  • 復旧テストは四半期に1回、30分で足りる

クラウド同期だけで運用している事務所の代表の方は、まず外付けHDDを1台用意し、今週中に最重要フォルダのコピーを1つ作るところから始めてください。それだけで「戻れる場所」が1つ増えます。

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鑑定評価書のAI作成から事務所のホームページ制作まで、鑑定事務所の業務に合わせた支援の全体像は不動産鑑定士のAI活用・IT支援のページでまとめています。

吉田 健人

代表取締役社長・不動産鑑定士

吉田 健人

外資IT企業でデータ分析・クラウドサービスの営業に従事した後、不動産鑑定士として独立。鑑定実務とITの両面の経験を活かし、同業の鑑定士事務所のIT化を支援している。

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