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Excel作業をAIに渡すとどこまで速くなるか?任せてよい工程と、計算を任せてはいけない理由

Excel作業をAIに渡すとどこまで速くなるか?任せてよい工程と、計算を任せてはいけない理由

「Excelの集計に半日取られた」「関数を調べている時間の方が長い」——事務所の業務を振り返ると、Excelに向かっている時間が想像以上に長いことに気づきます。生成AIが普及した今、この時間を減らせないかと考えるのは自然なことです。

ところが実際に試した方から、「AIに合計を出させたら数字が合わなかった」「結局自分で確かめ直したので早くならなかった」という声もよく聞きます。これは使い方を誤ったというより、Excel作業のどの部分をAIに渡したかの選択でつまずいています。速くなる工程と、渡すと逆に遅くなる工程がはっきり分かれているのです。

当事務所は不動産鑑定業を営みながら、資料整理や帳票作成をAIで回しています。この記事では、私たち鑑定士が、Excel作業を「設計・整形・計算」の3つに分けたうえで、任せてよい工程、任せてはいけない工程、そして検算を前提にした具体的な手順を整理します。結論から申し上げると、計算そのものをAIに任せてはいけない、これは断言します。

Excel作業は3つの工程に分けて考える

「設計」「整形」「計算」は性質がまったく違う

Excelでの作業を一括りに「表計算」と呼んでいると、どこをAIに渡すべきかの判断ができません。当事務所では次の3つに分けて考えています。

工程具体的な作業性質
設計数式・関数を組み立てる、集計の条件を決める、表の構造を決める知識と論理の作業
整形表記ゆれの統一、単位や日付の書式揃え、資料からの転記、列の並べ替え反復作業
計算合計・平均・単価などの実際の数値算出機械的な演算

このうちAIが効くのは設計と整形です。計算は、すでにExcelという正確な計算機があるので、AIに渡す理由がありません。

時間を食っているのはたいてい設計と整形

「Excelで半日つぶれた」というときの中身を分解すると、実際に計算していた時間はごくわずかです。大半は「どの関数を使えばよいか調べていた時間」と「バラバラの表記を揃えていた時間」に消えています。つまり、時間を食っている部分と、AIが得意な部分は、もともとよく重なっています。逆にいえば、この重なりの外にある計算までAIに渡そうとした瞬間、精度の問題が起きるわけです。

任せてよい工程(1)数式・関数の設計

やりたいことを日本語で書けば数式になる

最も費用対効果が分かりやすいのが数式の設計です。「A列の物件種別が『マンション』で、かつD列の取引時点が2025年以降の行について、G列の単価の平均を出したい」と日本語で書けば、条件付き平均の数式が返ってきます。関数名を思い出せなくても、条件を言葉で説明できれば形になります。

効き目が大きいのは、自分では書けない関数を使いたいときです。複数条件の集計、別表からの参照、文字列の切り出しなど、年に数回しか使わない関数を毎回調べ直している方ほど、削減幅が大きくなります。

「何をしたいか」だけでなく「表の形」も伝える

うまくいかない指示の典型は、やりたいことだけを書いて表の形を伝えていないケースです。ヘッダーが何行目にあるのか、データが何行目から始まるのか、各列に何が入っているのかを添えるだけで、返ってくる数式の精度は明確に上がります。指示そのものの組み立て方には、別記事で扱った設計の原則がそのまま当てはまります。

数式は必ずテストデータで検算する

返ってきた数式をそのまま本番の表に貼るのは避けてください。答えが合っているかどうかは、数式を眺めても分かりません。手計算で答えが分かる数行のテストデータを作り、そこで想定どおりの値が出るかを確かめる。これが最短の検証方法です。3行4列程度のテスト表なら1分もかかりませんし、この1分が後の作り直しを防ぎます。

任せてよい工程(2)データ整形

表記ゆれの統一は反復作業の塊

「株式会社」と「(株)」、「1,200万円」と「12000000」、「令和7年4月1日」と「2025/4/1」。複数の資料から集めたデータには必ず表記ゆれが混じります。この統一作業は判断ではなく反復作業であり、AIに渡す典型例です。

当事務所の使い方:資料から一覧表まで

当事務所では、複数のPDF資料から必要項目を抜き出して一覧表にする工程を自動化しています。従来180分かかっていた事例整理の作業が30分になりました。詳しい手順は取引事例の整理を自動化するにまとめていますが、ポイントは、AIの仕事を「表を作るところまで」に限り、採否の判断は人が行うと線引きしたことです。

整形でも「元資料から写す」を必ず明示する

整形作業でも、指示に「資料に書いてある内容だけを転記する。読み取れない項目は空欄のままにして「判読不可」と報告する」と明示してください。生成AIは空欄をもっともらしく埋めてしまう性質があり、これをハルシネーション(もっともらしい誤りを生成する現象)と呼びます。埋めさせないためには、推測を禁止し、分からないことを分からないと報告させる指示が要ります。検証の型はハルシネーションとは?検証の型4点で詳しく扱っています。

任せてはいけない工程 — 計算そのもの

生成AIは計算機ではない

ここが最も誤解されている点です。生成AIは、与えられた文脈に続く言葉を確率的に選ぶ仕組みであり、電卓のように演算回路で計算しているわけではありません。桁数の多い数値の四則演算や、数十行の合計を「暗算」させると、もっともらしい桁数の、しかし誤った値が返ることがあります。しかも誤り方が不自然でないため、目視では見逃しやすいのです。

想定されるケースで比べてみる

月末に、取引データ40行の単価平均を求める場面を考えてみます。

  • やってはいけない例: 40行の数値をそのままAIに貼り付け、「平均単価を計算して」と頼む。返ってきた数値が正しいかは、結局自分で40行を足し直さないと確かめられません。検証コストが作業コストを上回ります
  • 推奨する例: 「この表の条件付き平均を出す数式を作って」と頼み、返ってきた数式をExcelに貼る。計算はExcelが行うので、正確性はExcelの保証範囲に入ります。人はテストデータでの1分の確認だけで済みます

同じ「平均を出す」でも、渡すものが数値か数式かで、検証の手間が根本的に変わります。AIには数式を書かせ、計算はExcelにさせる。これが実務上の原則です。

環境そのものを整える選択肢もある

Microsoftは2024年10月、Excel上でPythonを実行できる「Python in Excel」の一般提供を開始しました(Microsoft「Windows Blog」2024年10月)。対象はWindows版のMicrosoft 365 Business・Enterpriseで、上位の計算モードには別途アドオンのライセンスが必要とされています。分析処理をExcelの中で完結させたい場合の選択肢にはなりますが、導入前にご契約のプランで利用できるかを必ずご確認ください。いずれにせよ、計算を行うのはPythonやExcelの側であり、AIは手順を書く側という関係は変わりません。

検算を前提にした4つの手順

手順1: 渡してよいデータかを先に確かめる

作業を始める前に、扱うデータに依頼者名・住所・契約金額などが含まれていないかを確認します。含まれる場合は、実データではなくダミーデータで数式を作らせ、完成した数式だけを本番の表に適用してください。事務所として線を引いておくべき基準は個人情報をAIに入力してよいかに整理しています。

手順2: 表の構造を説明して数式を作らせる

ヘッダー行・データ範囲・各列の内容を添えて依頼します。1回で完璧を狙わず、返ってきたものに対して「日付が空欄の行は除外して」と追加で伝える方が、結果的に早く収束します。

手順3: テストデータで検算する

手計算で答えが出せる小さな表を作り、そこで数式を通します。想定と違えば、数式ではなく指示の前提が間違っていることが大半です。

手順4: 本番適用後に端の行を目視する

本番の表に適用したら、最初の数行と最後の数行、そして条件に当てはまらないはずの行を目視します。範囲指定のずれは、たいていこの端の行に現れます。

検算時間を先に見積もる

この4手順で増える確認作業は、慣れれば数分です。判断の基準はシンプルで、検算にかかる時間が、自分でやる時間を上回るならAIに渡さない。40行の合計を頼んではいけない理由も、結局はこの一点に尽きます。

まとめ

Excel作業は「設計・整形・計算」に分けた瞬間に、どこをAIに渡すべきかが決まります。速くなるのは設計と整形、渡してはいけないのは計算です。要点を振り返ります。

  • Excelで時間を食っているのは計算ではなく、関数を調べる時間と表記を揃える時間。ここはAIに移せる
  • 数式の設計は日本語で条件を説明すれば形になる。ヘッダー行・データ範囲・列の内容を必ず添える
  • データ整形では「元資料から写す・分からない項目は空欄のまま報告する」を指示に入れ、推測での穴埋めを防ぐ
  • 生成AIは計算機ではない。数値を渡して合計や平均を暗算させると、もっともらしい誤りが混じる
  • AIには数式を書かせ、計算はExcelにさせる。検証コストが根本的に変わる
  • 実データに依頼者情報が含まれるなら、ダミーデータで数式を作り、数式だけを本番に適用する

月次の集計やデータ整理に時間を取られている事務所の方は、まず直近のExcel作業を3工程に分解してみてください。削れる時間は、たいてい計算ではなく設計と整形の側にあります。

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吉田 健人

代表取締役社長・不動産鑑定士

吉田 健人

外資IT企業でデータ分析・クラウドサービスの営業に従事した後、不動産鑑定士として独立。鑑定実務とITの両面の経験を活かし、同業の鑑定士事務所のIT化を支援している。

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