「AIを入れたいが、初期費用がネックになっている。補助金は使えないのか」
士業事務所や小規模な会社の代表の方から、この質問をいただく機会が増えました。結論から申し上げると、使える制度はあります。ただし「AIのサブスクリプション料金を補助金で払う」という発想のままでは、ほぼ確実に対象外になります。補助金の側が想定している費用の形と、実際にAIを導入するときに発生する費用の形が、一致していないからです。
当社は不動産鑑定事務所として自社の実務をAIと自動化で回しており、その経験をもとに士業・中小事務所の導入支援も行っています。本記事では「デジタル化・AI導入補助金」と「小規模事業者持続化補助金」の2つを取り上げ、どの費用が対象になりやすく、どの費用が落ちやすいのかを整理します。なお本記事は2026年9月時点の公表資料に基づくものです。制度は年度ごとに変わるため、実際の申請では必ず最新の公募要領をご確認ください。会計処理・税務上の取扱いは税理士にご確認ください。
2026年度、IT導入補助金は「デジタル化・AI導入補助金」になった
長く「IT導入補助金」と呼ばれてきた制度は、令和7年度補正予算事業から**「デジタル化・AI導入補助金」**に名称が変更されました(中小企業庁「中小企業デジタル化・AI導入支援事業『デジタル化・AI導入補助金2026』の概要」令和8年4月)。検索で「IT導入補助金」と調べると旧名称の古い記事が大量に出てくるため、補助率や上限額を読み違えやすい状態になっています。最初に押さえておいてください。
申請枠は5つ、士業が見るのは通常枠
2026年度の申請枠は次の5つです。
| 申請枠 | 主な用途 |
|---|---|
| 通常枠 | ITツールを導入して業務効率化・DXを進める |
| インボイス枠(インボイス対応類型) | 会計・受発注・決済ソフトとPC等をあわせて導入 |
| インボイス枠(電子取引類型) | 発注者がツールを導入し取引先に無償で使わせる |
| セキュリティ対策推進枠 | サイバーセキュリティ対策を進める |
| 複数者連携デジタル化・AI導入枠 | 商店街など10者以上が連携して導入 |
士業事務所が単独でAIや業務ツールを導入するなら、まず見るべきは通常枠です。
通常枠の補助率と補助額
通常枠は、導入するITツールが担う「業務プロセス」の数で区分が変わります。プロセス数が1つから3つまでなら補助額5万円から150万円未満、4つ以上なら150万円から450万円以下で、いずれも補助率は2分の1以内です。100万円のツールを入れれば50万円が戻ってくる計算です。一定の条件を満たす最低賃金近傍の事業者は補助率が3分の2以内に引き上げられ、反対にプロセス数4つ以上の区分では賃金引上げ計画の策定・表明が要件となります。
小規模な士業事務所が導入するツールは現実的にプロセス数1つから3つの区分に収まることが多く、実質的な上限は150万円未満・補助率2分の1と考えておくのが安全です。
対象になる費用・ならない費用の境目
ここが本記事の中心です。多くの方が誤解されているのは、補助対象になるのは「事務局に登録されたITツール」に限られるという点です。
対象になりやすい費用
通常枠の対象経費は、おおむね次の3種類です。
- ソフトウェア購入費:パッケージソフトの購入費用
- クラウド利用料:最大2年分までがまとめて対象
- 導入関連費:機能拡張やデータ連携ツールの導入、セキュリティ対策にかかる費用と、導入・活用コンサルティング、導入設定、マニュアル作成、導入研修、保守サポートにかかる費用
注目していただきたいのは、導入研修や活用コンサルティングといった「人が動く費用」も対象に含まれていることです。AI導入がうまくいかない最大の原因はツールそのものではなく定着の失敗ですから、この部分が対象経費になっているのは実務上大きな意味を持ちます。どの業務から手を付けるかという設計の話は士業事務所のAI導入、最初の1業務はどう選ぶかで整理しています。
月額課金のサービスは「毎月の経費だから補助金には馴染まない」と思われがちですが、クラウド利用料は2年分を一括で対象経費に計上できる設計になっています。
対象外になりやすい費用
一方、次の費用は対象外になるか、少なくとも通常枠では通りません。
- 事務局に登録されていないITツールの費用:これが最大の落とし穴です。汎用の生成AIサービスを個人アカウントで契約して月額を払う形は、そのサービスが登録ITツールでない限り対象になりません
- パソコン・タブレット等のハードウェア購入費:通常枠の対象経費にハードウェアは含まれません。PC・タブレットやレジ・券売機等が対象になるのはインボイス枠(インボイス対応類型)です
- 交付決定より前に発注・契約・支払いをした費用:制度共通の鉄則です
ツール自体の料金水準はClaude Codeの料金はいくら?士業事務所のプラン選び完全ガイドも参考にしてください。補助対象になるかどうかとは別に、自己負担で回せる金額かを先に見ておくべきだと当社は考えています。
申請は「IT導入支援事業者」を通して行う
この補助金は事業者が単独で申請するものではなく、事務局に登録されたIT導入支援事業者(ITツールを提供するベンダー)のサポートを受けて交付申請する仕組みです。「使いたいツールがある」だけでは申請できません。導入したいツールが決まっている場合は、まず提供元に登録の有無を確認してください。
もう一つの選択肢 — 小規模事業者持続化補助金
デジタル化・AI導入補助金の枠に収まらない場合の候補が小規模事業者持続化補助金です。商工会・商工会議所と連携して経営計画を作成し、その計画に基づく販路開拓等の取組を支援する制度で、対象経費の幅が広いのが特徴です。
第20回公募の基本条件
2026年5月27日に公表された第20回公募(一般型・通常枠)の主な条件は、申請受付期間が2026年11月5日から12月15日17時まで、補助上限額50万円(インボイス特例で50万円、賃金引上げ特例で150万円の上乗せあり)、補助率3分の2(賃金引上げ特例を用いる赤字事業者は4分の3)です。事業支援計画書の発行を商工会・商工会議所に依頼する期限が申請締切より前に設定されている点には注意が必要で、第20回では12月4日が目安とされています。締切直前に動き出しても間に合いません。
ウェブサイト関連費には4分の1ルールがある
士業事務所がこの補助金でよく狙うのがホームページの制作・リニューアルですが、明確な制約があります。ウェブサイト関連費は補助金交付申請額の4分の1が上限で、かつこの経費のみでは申請できません。補助上限50万円で申請するなら、ウェブサイト関連費に充てられる補助金は12万5,000円までです。「ホームページ制作費を補助金で賄う」という発想はこの制度では成立しません。ホームページ自体の費用感は士業のホームページ費用相場は?で解説しています。
想定されるケースで金額を試算する
具体的な数字で見たほうが判断しやすいので、想定されるケースを2つ挙げます。いずれも架空の設定であり、採択を保証するものではありません。
ケース1:デジタル化・AI導入補助金(通常枠)
従業員5名の士業事務所が、案件管理と文書作成を担うクラウド型のITツール(登録ITツール)を導入する場合を想定します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| ソフトウェア購入費 | 40万円 |
| クラウド利用料(2年分) | 48万円 |
| 導入設定・研修・保守サポート | 32万円 |
| 対象経費合計 | 120万円 |
プロセス数3つ以下の区分で補助率2分の1とすると、補助額60万円、自己負担60万円です。ここで重要なのは、120万円は一度全額を自分で支払うという点です。補助金が入金されるのは事業実施後の実績報告と検査を経た後になります。
ケース2:小規模事業者持続化補助金(一般型・通常枠)
同じ事務所が、ホームページのリニューアル60万円と、セミナー開催・パンフレット制作等の広報費40万円、合計100万円の取組を行う場合を想定します。補助率3分の2で計算すると66万6,000円ですが、補助上限50万円により補助額は50万円です。ただし4分の1ルールにより、ウェブサイト関連費に対応する補助金は12万5,000円が上限です。ホームページに60万円かけても、そこに直接ひもづく補助金は12万5,000円分にとどまる、という構造を理解しておいてください。
申請前に知っておくべき4つの落とし穴
制度の中身以前に、補助金という仕組みそのものに共通する注意点があります。当社が相談を受けていて、最も多く行き違いが起きるのがこの部分です。
交付決定前の発注・契約は対象外になる
これは断言します。補助金は、交付決定通知を受けた後に発注・契約・支払いをした費用だけが対象です。「先に導入を進めて、後から補助金を申請する」は通りません。順番を間違えると、要件をすべて満たしていても対象外になります。
原則として後払いである
補助金は精算払いが原則です。事業を実施し、実績報告を提出し、事務局の確認を経てから入金されます。導入時点では全額を自己資金または借入で立て替える必要があり、手元資金に余裕がない状態で補助金をあてにして高額なツールを契約するのは危険です。
採択される保証はない
審査があり、不採択もあります。「補助金が通ったら導入する」という計画の立て方をすると、不採択になった時点で改善の取組そのものが止まります。当社が推奨しているのは、補助金がなくても実行する価値がある投資かどうかを先に判断し、補助金は通ればありがたい追い風として扱うという順序です。
税務上の取扱いは税理士に確認する
受け取った補助金は原則として収益として計上され、受け取った事業年度の所得に影響します。圧縮記帳などの取扱いを含め、資金繰りと税負担の見通しは必ず税理士にご確認ください。
まとめ
補助金でAI導入の費用を賄えるかという問いへの答えは、「使える制度はあるが、費用の形を制度に合わせる必要がある」というものです。要点を振り返ります。
- 2026年度から「IT導入補助金」は「デジタル化・AI導入補助金」に名称変更されました。旧名称の古い情報で補助率や上限額を読み違えないでください
- 通常枠の対象経費はソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入関連費です。導入研修やコンサルティングといった定着支援の費用も対象になります
- 対象になるのは事務局に登録されたITツールに限られ、申請は登録IT導入支援事業者を通して行います。汎用の生成AIサービスを個人で契約する形は対象になりません
- ホームページ関連は小規模事業者持続化補助金が候補ですが、ウェブサイト関連費は補助金交付申請額の4分の1が上限で、単独申請もできません
- 交付決定前の発注は対象外、支払いは原則後払い、採択の保証はない。この3点が制度共通の前提です
初期費用を抑えてAI導入を進めたい小規模事務所の代表の方にとって、補助金は有力な選択肢です。ただし制度は年度ごとに変わり、公募回によって要件も締切も異なります。申請を検討される際は、必ず最新の公募要領を一次資料として確認してください。
当社は補助金ありきではなく「どの業務にいくら投じれば何時間戻ってくるか」を先に一緒に設計します。AI導入・HP制作・業務自動化のご相談は、鑑定事務所が自社で使い込んだ経験をもとにお応えします。無料相談をご利用ください。導入判断の材料になる無料資料もこちらからダウンロードいただけます。




