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Blog / AI活用

AIエージェントとは?2026年にどこまで来たか、士業事務所が今から備える3つの変化

AIエージェントとは?2026年にどこまで来たか、士業事務所が今から備える3つの変化

去年までは「生成AI」という言葉で足りていたはずなのに、この1年で「AIエージェント」という呼び方が一気に増えました。展示会でも、ベンダーの提案書でも、同業の先生との雑談でも出てきます。また新しい道具に乗り換えないといけないのか、うちの事務所の業務は結局どうなるのか。そう身構えている方は少なくないはずです。

先に結論を申し上げます。AIエージェントは、まったく別の新技術ではありません。これまでの生成AIに「自分で手順を分解して、実際に作業する」能力が加わったものです。ただし、この一点が変わっただけで、事務所が効率化できる業務の範囲は大きく広がりました。そして変わらないところも、はっきりあります。

当社は不動産鑑定事務所であり、エージェント型のAIを毎日の実務で動かしています。開発会社としてではなく、まず自分たちの業務で使い込んだ立場から、私たち鑑定士が2026年時点の到達点と、士業事務所が今から備えるべきことを整理します。

2026年、AIは「答える」から「手を動かす」へ移った

AIエージェントとは、工程を自分で分解して実行するAIのこと

AIエージェント(AI agent:与えられた目的に対して、必要な手順を自分で分解し、道具を使いながら実行まで行うAI)という言葉の要点は、**「実行まで行う」**という部分にあります。

従来のチャット型AIに「この30件の取引事例を一覧にして」と頼むと、返ってくるのは「こういう手順で整理するとよいでしょう」という文章か、こちらが貼り付けた範囲の整理結果です。エージェント型に同じことを頼むと、フォルダの中を自分で探し、PDFを1件ずつ開いて読み、抜き出し、表計算ファイルとして書き出すところまでが一続きで動きます。

つまり、人が「作業の段取りを組んで、資料を運んで、AIに渡す」という工程そのものが要らなくなります。チャット型とエージェント型の性格の違いはClaude CodeとChatGPTの違いとは?チャット型とエージェント型を士業目線で比較で詳しく整理していますので、あわせてご覧ください。

「AIエージェント元年」は2025年、2026年は定着の年

2025年は各社がエージェント型の製品を相次いで発表した年でした。2026年に入ってからの変化は、発表ではなく現場での定着のほうにあります。業務システムの中に組み込まれた形でエージェントが動き、利用者側が「AIを使っている」と意識しないまま処理が進む場面が増えました。

士業事務所の目線で言えば、これは「新しいツールを覚える」段階から「どの業務を任せるか決める」段階に移ったということです。競争の軸が、道具の目新しさから業務設計に移っています。

数字で見ると、日本は導入では追いついた

総務省「令和8年版情報通信白書」(2026年7月24日公表)によれば、何らかの業務で生成AIを利用している企業の割合は日本で86.4%に達しました。前年度調査の55.2%から大きく伸び、米国90.9%、ドイツ91.6%との差はかなり縮まっています。個人の利用経験率も58.8%(前年度26.7%)と倍以上になりました。

ただし同じ白書は、別の数字も示しています。生成AIを前提とした業務変革について「組織的な取組はない」と回答した日本企業は27.0%。米国1.4%、ドイツ4.9%と比べて突出して高く、中小企業に限れば45.6%にのぼります。道具は入ったが、業務の組み直しは手つかずという事務所が多数派なのが日本の実像です。エージェント型の効果が出るかどうかは、まさにこの組み直しの有無で分かれます。

士業業務のうち、影響が先に出る領域

「読む・並べる・突き合わせる」から先に変わる

エージェント型の得意分野ははっきりしています。大量の資料を読み、一定の形式に並べ、相互の食い違いを洗い出す作業です。

士業の実務には、この形の作業が驚くほど多く含まれます。鑑定であれば取引事例や賃貸借契約書の整理、登記関係であれば添付書類の突き合わせ、税務であれば領収書や請求書と帳簿の照合。いずれも判断そのものではなく、判断の材料を揃える工程です。ここが最初に、そして最も大きく変わります。

想定されるケース:月8回の資料整理業務

仮に、1件あたり30件の資料を一覧化する業務が月8回発生する事務所を考えます。

工程従来エージェント型導入後
資料を探して開き、抜き出す約90分0分(AIが直接読む)
整理・一覧化約60分約10分
人による検算・確認約30分約20分
合計約180分約30分

1回あたり150分の短縮で、月8回なら月20時間。仮に時間単価を5,000円と置けば月10万円分の工数に相当します。当事務所でも、取引事例の整理・一覧化は従来180分かかっていた作業が30分程度になりました。

ここで強調しておきたいのは、短縮されたのはAIの処理時間ではなく、人が資料を運んでいた時間だという点です。AIが速くなったのではなく、人の手作業が工程から外れたために減っています。この構造が分かっていると、どの業務に効くかを自分で見分けられるようになります。

定型文書の下書きも対象になる

案内文、督促の連絡、定型的な報告書の骨子といった文書も、過去の文例と当該案件の資料を読ませたうえで下書きまで任せられます。ただし対外文書である以上、発信前の確認は人が行うことが前提です。

当面、人に残る領域

独占業務の判断と、その責任

不動産鑑定評価も、登記申請も、税務代理も、法律が資格者に留保した業務です。AIがどれだけ精緻な下書きを作っても、価格の決定、申請内容の決定、署名押印の責任は資格者本人から動きません。これは技術の進歩で変わる話ではなく、制度の建て付けの問題です。断言しますが、ここが自動化されることは当面ありません。

依頼者との合意形成

依頼者が本当に求めているものを聞き出し、前提条件を握り、期待値を調整する。この過程は、言語化されていない情報を扱う仕事です。何を心配しているのか、どこまでなら受け入れられるのか。AIには渡す材料そのものがありません。

事実そのものの真偽確認

AIは与えられた資料の内容を疑いません。資料自体が古い、写しが不鮮明で数字を読み違えている、そもそも前提が違う。こうした誤りは、AIの検証機能では防げません。現地を見る、役所に確認する、依頼者に聞き直す。この工程は残ります。

事務所が今から備える3つの変化

変化1:業務を「作業」と「判断」に分けて棚卸しする

エージェント型を前提にすると、業務の見方が変わります。「この業務をAIに任せられるか」ではなく、**「この業務のどの工程が作業で、どこからが判断か」**という分け方です。

たとえば鑑定評価という業務全体は任せられませんが、その中の事例収集と一覧化は作業です。まずは手持ちの主要業務を工程単位に書き出してみてください。これをやらないまま製品比較から入ると、たいてい途中で止まります。どの業務から着手するかの考え方は士業事務所のAI導入、最初の1業務はどう選ぶか?失敗しない3軸の選定基準にまとめています。

変化2:データを「AIが読める場所・形」に置く

エージェント型の力は、AIがデータに直接届いて初めて出ます。資料が個々人のパソコンに散らばっていたり、紙のままだったり、スキャンしただけで中身の文字が読み取れないPDFだったりすると、どれだけ高性能なAIを契約しても効果は出ません。

具体的には、案件ごとにフォルダ構成を統一する、ファイル名の付け方を揃える、スキャンは文字認識付きで行う。この3つだけでも土台が変わります。AIと事務所のデータをつなぐ仕組みについてはMCPとは?AIに資料を貼り付ける運用の限界と、事務所のデータをつなぐ仕組みで解説しています。

変化3:確認の責任者と手順を先に決める

作業が速くなるほど、確認が追いつかないという問題が起こります。エージェント型は人が指示していない工程も自分で進めるため、「誰が、何を、どの深さで確認してから外に出すか」を先に決めておかないと、速さがそのままリスクになります

最低限、外部に出る成果物と、書き込み・送信を伴う操作については、実行前に人の確認を挟む運用にしてください。あわせて、権限は読み取り専用から始め、業務に慣れてから書き込みを許す順番が安全です。なお、依頼者情報の取扱いが各士業の守秘義務や会則に照らして適切かどうかは、所属会の指針や顧問弁護士にご確認ください。

まとめ

AIエージェントは、生成AIに「自分で手順を分解して実行する」能力が加わったものです。2026年の日本は、導入率では世界水準に近づいた一方、業務の組み直しには手がついていません。だからこそ、いま工程を整理した事務所とそうでない事務所の差は、これから開いていきます。

要点を振り返ります。

  • AIエージェントとは、目的から手順を自分で分解し、道具を使って実行まで行うAIのこと。チャット型との違いは「実行するかどうか」にある
  • 総務省「令和8年版情報通信白書」では企業の生成AI利用率は86.4%に達した一方、「組織的な取組はない」が27.0%(中小企業では45.6%)と、業務変革は手つかずの事務所が多い
  • 先に変わるのは「読む・並べる・突き合わせる」工程。資料整理のように、人が資料を運んでいた時間がまるごと消える
  • 独占業務の判断と責任、依頼者との合意形成、事実そのものの真偽確認は当面人に残る
  • 備えるべきは、業務を作業と判断に分ける棚卸し、AIが読める形でのデータ整備、確認の責任者と手順の事前決定の3点

これから事務所の体制を考える士業の先生方、とくに職員数が限られる中で業務量が増えている事務所の代表の方にとって、この1年の動き方は数年後の差になって表れます。必要なのは高価な製品の導入ではなく、自分の事務所の業務を工程に分けて眺め直すことです。

当社は不動産鑑定の実務でエージェント型のAIを日常的に動かしており、うまくいった手順も、止まった原因も自分たちで経験しています。AI導入・業務自動化のご相談は、鑑定事務所が自社で使い込んだ経験をもとにお応えします。何から手を付けるべきか整理したい段階でも構いませんので、無料相談をご利用ください。

吉田 健人

代表取締役社長・不動産鑑定士

吉田 健人

外資IT企業でデータ分析・クラウドサービスの営業に従事した後、不動産鑑定士として独立。鑑定実務とITの両面の経験を活かし、同業の鑑定士事務所のIT化を支援している。

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